購買コンサルティング

【決済条件】海外顧客との取引では決済条件の理解こそ最大のリスクヘッジ

Dr. Trade
Dr. Trade
こんにちは、商社出身貿易ドクターです!本日は海外顧客との取引を試みる凄腕の皆様へ決済条件について説明するよ!お金が最後の最後の砦!海外起業に負けない日本企業を目指して頑張ろう!

記事の内容
  • まずはマインドセット! 〜日本人を捨てる〜
  • 決済条件の種類
  • 売り手の立場ならこう考えよう
  • 買い手の立場ならこう考えよう
  • 相手と自分の関係性を見極める

 

まずはマインドセット!〜日本人を捨てる〜

初の海外企業との取引、期待と不安が募りながらも、まあメールと(電話?)もしてるし信用できそうだからいっか!と要求されるがままに前払い(輸入・支払のケース)、後払い(輸出・受領のケース)を受けていないでしょうか。その取引、非常に危ないです!日本ほど素晴らしく国の文化として物を買ったらお金を払う、期日までにお金を支払わないとダメだ、という様な風潮をもつ国は他にありません。海外では支払いを不履行にするケースや支払いをわざと遅延するケース(←これはもはや当たり前)がよく起こります。そして、これにずーっと頭を悩ませ続けてるのが正に、商社であり、それが故に『商社不要論』と言われながらも十年以上生き延びてる一つの理由と言えます。なぜ、それほど日本と異なるのか?これはそもそもの考え方の出発地点が違います。

① 失敗したら破産申請してまたやり直せばいい

② 支払いを遅延させる=金利分儲ける事ができる

特に②に関し低金利社会の日本で生活する我々にとっては馴染みがない考えなのですが、中国・インド・アジア諸国を中心とした市中金利がそもそも高い国ではお金を借りる際、例え中規模の会社であっても年利10%以上が普通に存在します。年利10%であれば一ヶ月当たり0.83%ですので30日支払いを遅らせれば、その分銀行で借りなくて良い為、0.83%分のディスカウントという発想になるのです。

Dr. Trade
Dr. Trade
彼らは商売人だから支払いが遅延するとは言ってこない。銀行窓口が休みなんだよ。とか、経理担当者が不在です。など、兎に角言い訳をしてくるから要注意だよ。

だからこそ海外の相手を我々の物差しで測る事自体が過失である為、まずは心持としてどんな綺麗事を言ってきても信ずる物は現金と貨物のみ!という信条でいきましょう。

決済条件の種類

それでは実際にどの様な決済条件が使われるのか、見ていきましょう。

決済条件 種類

  送金

  1. 前受金        英 TT in advance
  2. 一覧後電子送金    英 TT at sight
  3. 後払い〇〇日送金   英 TT 〇〇 after B/L date

  銀行経由取引

  1. LC取引        英 LC at sight
  2. ユーザンス付LC取引  英 LC 〇〇 days
  3. 手形支払時書類渡し 英 D/P Document against Payment        
  4. 手形引受時書類渡し 英 D/A Document against Acceptance

 

基本的には英語で覚えた方が分かりやすいと思います。そして、大きく分けてまずは『送金』か『銀行経由取引』に二分されます。特徴としては送金は自社・相手間で完結する一方、銀行経由取引は銀行を介在させる事でリスクが少し下がります。その背景も含め個別に説明していきます。

送金

①前受金     英 TT in advance

事前に売り手が買い手からお金を貰う事。

 

②一覧後電子送金 英 TT at sight

買い手は貨物船積書類を入手後、売り手に送金。

 

③後払い〇〇日  英 TT 〇〇days after B/L date

船積み日(=B/L)を起点にして〇〇日後に送金

 

◆銀行経由取引

①LC取引  英 LC at sight

Letter of Creditといい、銀行が買い手に変わり売り手に対し支払い保証をします。

 

②ユーザンス付LC取引 英 LC 〇〇 days

①と基本は同じですが、売り手が銀行からお金を入手できるのが、船積み後〇〇日後となりますが、これも時間軸の問題だけであり支払いは保証されております。

 

③手形支払時書類渡し  英 D/P Document against Payment

送金のTT at sight と同じ原理ですが、これを銀行経由で実行致します。

書類の流れ

TT at sight: 売り手→買い手

D/P:売り手→銀行(売り手側)→銀行(買い手側)→買い手

 

 

④手形引受時書類渡し   英 D/A Document against Acceptance

送金の後払いに似てます。買い手は銀行に対し、支払手形をAcceptするだけ(つまり、払います!と言うだけ)で船積み書類を入手する事ができます。一般的には売り手・買い手で合意したユーザンスが付与されます。例えば、60日のユーザンスで合意した場合は、D/A 60days after B/L dateと表現され、貨物を船積みした後、船積み書類を銀行経由で買い手側に送付します。買い手は銀行から「期日がB/L日から60日後の支払手形がありますが受けますか?」と言われますので「受けます!」と答えてしまえば書類を入手できます。

 

船積み書類=有価証券 ただの書類ではない!!

ここまで見ると、よく「船積み書類』と言う単語がよく出てきますが、実は決済条件を賢く選ぶ上で非常〜に重要な役割をします。下記ご参照。ただの書類ではない事が分かりますね。

 

船荷証券は、運送品引渡請求権が表章された有価証券である。

船荷証券は、船会社に対して貨物を引き渡したことを証する受取証である。

船荷証券は、荷揚げ地において貨物の引取に必要な引換証である。

船荷証券は、裏書することにより流通証券となる。

船荷証券は、運送業者と荷主との間で運送条件を示した輸送契約書である。

引用元:wikipedia

Dr. Trade
Dr. Trade
船積み書類の中のB/Lは正真正銘の有価証券。つまり、株式や手形と同類なんだ。リスクヘッジの観点から見ればB/Lを入手すると言う事は貨物を人質にとれると言う事。

それでは各決済の内容を押さえた上で、どの様に活用すればいいのか、実践的な目線で分かりやすく解説していきます!大事な事は常に最悪のケースを考える事!! それでは売り手・買い手の立場それぞれから見ていきます。

売り手の立場ならこう考えよう

A)一番は貨物を出荷する前にお金を既に入手している状態ですよね。もしくは、絶対に100%支払いが約束されている状態だと思います。

B) 二番はお金はまだ入手できていないが、相手がお金を支払わなければ貨物を引き取れない状態である事。(最悪、相手がばっくれた場合でも貨物の所有権は自分にあり、その貨物を転売するなり、戻すなりすることができる)

C) 三番はお金も入手できてないし且つ貨物も相手に渡ってる状態。

この順番でリスクは増大していきますね。これを上記の決済条件で振り分けると

A)前受金>LC取引>ユーザンス付きLC取引

B)D/P

C) TT at sight(against document ≧D/A>後払い送金

となります。A)は簡単ですね。B)は買い手が先にお金払わないと銀行が書類を出さないので、最悪のケースでも書類は渡りません。リスクの高いC)分類での優先順位を理解する事でこの決済の本質が見えてきます。

C)分類に関し、もう少し補足します。注目いただきたいのは>ではなく≧の部分がある事に関してです。TT at sightとD/A 60days after B/L dateを比較した際どちらがハイリスクと言えるのでしょうか。

答えは、何で見るかによります。TT at sightは船積み書類を渡せばすぐに送金する条件なので現金がすぐに手に入ると言う点ではリスクが小です。が、最悪の場合、顧客が支払いをばっくれた時、貨物は既に船に乗っており、そして書類も発送済になりますので、極端な話、貨物をお金を支払わずに得る事ができてしまいます。D/Aも同じでは?と思うかもしれません。先程ご説明の通りD/AはAcceptするだけで、書類が入手できますので、書類もすぐに手に入ります。但し、銀行が入る事で、最悪の場合、売り手がばっくれた場合は彼らが支払手形を期日通りに履行しなかった記録が銀行に残り、そして認知される事になります。そうなるとその会社がその銀行からお金を借りる際、その取引記録が引用される為、これが抑止力につながるのです。

Dr. Trade
Dr. Trade
流石の海外企業も銀行に嫌われると商売できないからね〜。そう言う意味ではよく相手を見て商売してるから強敵だね!

よって、顧客との話の中でC分類での決済でしか受け入れてもらえない場合は自社とその顧客との関係をよく考えた上で、現金化の速度を取るのか、銀行の抑止力を取るのかを考えて判断しましょう。そう言う意味ではよっぽどの事でない限り、送金による後払いはなし、と判断されるのが賢明です。

買い手の立場ならこう考えよう

A)一番は貨物が到着した後に、お金を支払う事。

B) 二番は貨物が自分/自社に100%渡る事が保証されたタイミングでお金を支払う事。

C) 三番はお金は払ったのに、まだ貨物が手に入ることが保証されていない状態。

見ての通り、買い手の立場では前払いは最も避けるべき支払い方法です。なぜならば、お金を先に支払い、かつ貨物が出てくるのかどうかも含め全て相手に依存しているからです。売り手の立場になって考えた時とほぼ真逆に考えて頂ければ分かりやすいですね!

A)後払い・D/A

B)D/P・LC取引・ユーザンス付きLC取引・TT at sight

C) 前払い

もう一つ踏み込んだ話をします。貿易ドクターの創立コンセプトでもある化学業界の購買支援をしたいと言う目線では品質リスクという見方ができます。つまり、D/A 〇〇 days after BL dateやTT〇〇days after BL dateにする事で、貨物が到着し、品質を確認した後にお金を支払う事で調達におけるリスクを完全に0にする事が可能です。逆を裏返せば、品質が信頼できない仕入先に対し、後払いだからと言って仮にTT at sightやLCを選んだ場合、貨物は間違いなく引き取れますがその貨物内容を確認できるときにはお金は相手の懐に入っております。ですので新規取引先に対しユーザンスを設定するのであれば、自社に貨物が到着するリードタイムを計算し、実質支払いが品質確認後となる様な形を取れれば安全な方法と言えます。

 

買い手側の時は後払いが基本。その上で、可能な限り現金を最後まで自分の懐に保管できる状態にしておきましょう。

相手と自分の関係性を見極める

此処まで各決済条件の中身と考え方を説明しましたが、実際の海外取引先との商談での現実はなかなか思い描いている状況にはなりません。初取引であればこれまでの説明からも売り手であれば前金、買い手であれば後払いにしよう!となりますよね。しかし実際は売り先からは後払いを要求され、買い先からは前金を要求されます。皆様の会社の大小に関わらず、かなりの確率でこの条件が突き付けられます。大切なのは海外起業にとってはこれは信用がないという表現ではなく(勿論一部はその意味もあるでしょう)が、これが常識という事です。つまり、『会社の規模が大きいから信用できる』・『支払いをばっくれる事はないだろう』という雰囲気的な考えは日本国特有でしかなく彼らにとっては、本当の信用とは、数年間での取引実績でのみ構築されるのです。現実主義とも言えますね。

此処で良い条件(自分に有利)を取るためにはこちらから交渉する必要があります。仕入先に『それなら商売をやらない』や売り先に『それなら買わない』と言われるリスクを考慮した上で自社・他社との関係性を考えます。世の中の原理原則として購買者が強いというのは基本ですよね。従い、買い手の立場の場合代わりの選択肢が確保できているのであれば、積極的に後払いを要求していきましょう。逆に売り手の立場の場合はなんとか、LC取引若しくは資金体力があるのであれば、ユーザンス付きLC取引の合意を狙うのがオススメです。LC取引は買い手側にも貨物を入手できる保証があり、売り手側も資金確保の保証がありますので、フェアな取引と言えます。

 

購買者>販売者の力関係は原理原則

但し希少性の高い仕入先や・緊急性の高いタイミングなどではこの構図が変わってくる為、関係性を見極めて交渉しよう。

Dr. Trade
Dr. Trade
それでも海外起業はLC開設をするのはコストが掛かるから、TT at sightとかTT 30days after BL date等の後払い式条件を要求してくる事が多いんだよね。最初の取引はLCコストを売り手側負担にしてでも、安全に進めた方が良いと思うね!

いかがでしたでしょうか。『お金の揉め事』というのは海外起業と仕事をやっていく上で自己責任で向き合っていかないといけない重要な事柄です。

記憶に新しいかもしれませんが、100年企業の江守商事さんが倒産に追い込まれたのも、販売した製品のお金を回収できなかったことになります。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67105

日本ではこの様な事はまず起こらない、が故に我々の決済に関するリテラシーはグローバル目線では残念ながら低い(逆言うと、本当に素晴らしい国)と言わざるえず、そして、海外起業にはその事実を利用されてしまってるわけですね。貿易基本条件の一つ、たかが『決済条件』(貿易基本条件については下部リンクご参照ください!)ですが一つ一つの取決めの裏側にある『お金と貨物』の動きの理解を深め世界で活躍する人材・企業を目指しましょう!

 

『実務編』貿易とは何?!

それではまた。