本日の記事の内容
- (番外編)何と中国で船釣りが出来ちゃいました笑
- 1匹の魚から食べられる部分は50%しかない
- 残渣を原料とするのが、化学産業
- 『コラーゲン』ブーム到来
- 貿易戦争で混沌とするフィッシュコラーゲン
- まとめ
(番外編)何と中国で船釣りが出来ちゃいました笑
いきなりの脱線で申し訳ございません笑 筆者は現在中国に滞在しているのですが、何と諦めていた船釣りがとある情報筋から、できるとのことを聞き付け、行ってきちゃいました!本題はしっかりと後段に書いておりますので大変僭越ではございますがまずはこの感動を少しでも披露させてください。(もし必要ない方は次の目次まで進んでください!!)
所で、中国で『船釣り』と聞くと、川じゃなくて??海??海と言ってもどうせ汚いんでしょう?とお思いではないでしょうか。
筆者も、皆様と同じ意見です。笑 そして中国に滞在しているとどうしても日本で食べられるような新鮮な魚が食べられない。。。そんな思いからも今回の船釣りイベントは非常に興味深いものでした。日本で船釣りの醍醐味といえば、釣りたての新鮮な魚が食べられる事。仮に中国で釣りができたとしても泥水のような海から釣られた魚は食べる気がしませんよね。果たして本当に美味しい魚が釣れるのかという疑問と不安を抱きながらも、当地の情報筋を元に釣りマニアな方々にお会いし、中国でも気合次第で美味しい魚が釣れるとのことで行って参りました。
こちら!!↓↓
・・・・・・笑。
遠洋漁業?というのが場所を聞かされた筆者の最初の感想です。笑
上海から車で4時間、船山(Zhoushan)という港町に付き、そこからジェットボートで片道2時間くらい東に走ります。ほぼ漁師の気持ちです。笑
朝4時過ぎですね。この水の色はまさに皆様がご想像の中国の海の色ですよね。そして更にここから、2時間ジェットボートで飛ばします。
・・・・・・・・・!!
何と!物凄く綺麗な海がありました!!笑 2時間も乗ってるので当然かもしれませんが、それほど外洋に出ないと綺麗な水は出てきません。改めて、中国の環境汚染について考えさせられます。。
という事で、中国にいながら綺麗な海で釣りを楽しんでしまいました。ここまでくれば立派な漁礁です。
大漁大漁♪♪とのことで、新鮮なハカツオとサバ・アジを頂いちゃいました。
うまい!!!日本でも中々出会えない新鮮な刺身に大満足です。
これ以上記載しますと、釣り日誌になってしまいますので、ここらへんに致します。そして、今回のテーマは釣りに因んで『魚』について取り上げたいと思います。『魚』をサプライチェーンの視点で追っかけるとこれもまた違う景色が見えて参ります。
1匹の魚から食べられる部分は50%しかない
魚といえば、食用のイメージがありますが実は魚1匹あたりで食べられる範囲は50%しかないと言われております。魚を捌かれる方であればお気付きかもしれませんが、捨てる部分の方が多いんですよね。
- 頭
- 尻尾
- 背骨
- 内臓
- 鱗
- 皮
- 身
魚は漁師によって収穫された後、市場で業者向けに販売されるか、食品加工メーカーに行き、カマボコになったり、切り身になったり、食べやすい状態にされた上でスーパーに流通し、そして我々消費者の元に届きます。食品加工業メーカーが大きな窓口となって一手に魚の処理を担うわけなのですが、上記通り食べられる部分は魚種に違いはあれど50%程しかありませんので、50%の残渣部分(頭、尻尾、背骨、内蔵、鱗、皮、身)が無駄になり捨てられることになります。
『捨てているものを活用し付加価値をつける。』どこかで聞いた事がありますね。そう、『化学』です。
これは原油からガソリンを取った後の残渣を活用しプラスチックやゴムといった付加価値製品を生み出してきた化学業界にとっては得意とする所になります。この発想から魚界で捨てられていた50%の残渣にもやがて化学の技術による有効活用が行われるのです。
【貿易ドクターの一言業界配信】
石油化学の誕生は石油からガソリン⛽️を取った後の残渣をなんとかならんかと、開発したことが始まり。
石油→ガソリン+残渣
この残渣から後に、エチレン、プロピレン、ブタジエン等が生まれここから樹脂が生まれ
— そうなんだ化学@貿易ドクター (@bouekidoctor) May 28, 2020
残渣を原料とするのが、化学産業
最もシンプルなのは兎に角砕いて、混ぜて飼料として販売する事です。我々人類にとっては食べられる部分が限られてしまいますが、生物界では魚は餌になりますので、餌としての価値があります。但し、餌の市場というのは想像いただける通り、非常に単価が安いんですよね。その為なんとかして高く売れるものがないかという模索の中、生まれたものが油の搾取になります。それが、魚油です。最近ではDHA/EPAと言った健康食品を耳にされることも多いのではないかと思います。これは魚に含まれる油で頭が良くなったり、血がサラサラになると言われてまして、圧力をかける・熱で溶かすなどの抽出技術が進歩し魚から絞り出すことができる様になりました。更にそこから魚油の有効成分とされるEPA/DHA純度を極限まで高め精製した物が今では医薬品となって上市しております。
残渣の一部からより価値の高い油を抽出し、残りのカスを飼料として販売する事で加工メーカーにとっても資源の有効活用が可能になりました。
そして技術の進歩と共に、今度は骨・鱗・皮からコラーゲンを抽出する事が可能になります。コラーゲンはタンパク質の1種であり、タンパク質は人体を構成する三大栄養(脂質・炭水化物・タンパク質)とも言われております。コラーゲンは人体に存在する全タンパク質の25-30%を占めており、細胞と細胞をつなぎ合わせる役割を担い、骨・軟骨・皮膚の弾力性を向上させます。『お肌がプルプルになる』という表現でよく使われますが、肌のたるみやシワを防ぎ、肌にハリを与える機能を持ち天然由来で元々身体に存在する親和性高い健康食品としての価値が生み出されたのです。↓↓これですね。
主に脊椎動物の真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質のひとつ。多細胞動物の細胞外基質(細胞外マトリクス)の主成分である。体内に存在しているコラーゲンの総量は、ヒトでは、全タンパク質の約25%を占める程多い。また、コラーゲンは体内で働くだけでなく人間生活に様々に利用されている。皮革は動物の皮が用いられているが、主成分はコラーゲンである。コラーゲン注入剤は美容目的の医薬品である[1]。ゼラチンはコラーゲンを変性させたものであり、食品、化粧品など様々に用いられる。
引用元:Wikipediaより
『コラーゲン』ブーム到来
こうして、価値の追求を重ねた結果、魚の残渣=飼料の構図から魚油・コラーゲンといった新たな製品が化学によって開発され資源のより高次元な有効利用に繋がっていきました。一方でこの原料の話とは別に『コラーゲン業界』では欧米を中心に発達してきた健康意識の向上がきっかけになり年率30%の高成長を見せます。
そして、市場規模が大きくなるにつれ大手日系企業でもコラーゲンに対する専用サイトが開設(下記参照)され、特に女性客をターゲットとしたコラーゲンブームが日本でも到来します。
ここでは魚の残渣の利用という観点からコラーゲンについて説明してきましたが、そもそもコラーゲンというのは生物の骨・皮に存在しているものですので魚である必要はなく動物(牛・豚・鳥)からも抽出する事ができます。原料調達の利便性、取れる数量から考えても自明の通り、コラーゲン業界では動物由来が従来の主流で魚由来はマイナーの位置付けでした。
しかしながら2000年代初頭に世界的社会問題となった狂牛病(BSE問題)問題による畜産由来製品の食への安全性に対する懸念をきっかけにフィッシュコラーゲンへの注目が高まります。魚由来は牛・豚・鶏よりも原料自体の生産量が少なく、価格も高い為あまり認知されていなかったのですが畜産系と比較し魚由来という安全性や、魚由来コラーゲン自体の特徴が評価され始めます。
- 狂牛病に関するリスクが一切ない
- 宗教上豚由来の物を食す事ができないイスラムの方々でも食せる。
- フィッシュコラーゲンは動物由来と比較し7倍の吸収率という研究結果
- 動物由来と比較し、匂いがない
動物由来よりも2-3倍高いフィッシュコラーゲンですが食への安全性意識やその機能性の高さが証明され始めたことから一躍ヒット商品に変わり果てます。
用途・分類 | コラーゲン価格帯(/kg) |
豚由来 | 1000-2000円 |
牛由来 | 1000-1500円 |
魚由来 | 2000-4000円 |
貿易戦争で混沌とするフィッシュコラーゲン
年率30%の勢いで慎重を続けるコラーゲン業界、その中でも優良株とされるフィッシュコラーゲンだったのですが、2018年後半より世界で起こった中米貿易戦争が業界に激震を与えます。
フィッシュコラーゲンの由来となる魚でメジャー原料とされるのはティラピア です。ティラピア は肉質に臭みがなく美味、かつ養殖が他の魚種に比べて簡単である事からも価格面・供給面共に世界で白身魚料理として愛されております。
ちなみにティラピア は↓な感じでして、鯛にも少し似てます。
アメリカでは↓感じでスーパーでも販売されてますし、レストランで食す白身魚はほとんどティラピア と言っても良いというほど好まれてます。
マクドナルドのフィレオフィッシュにも採用されてた時期があったとも言われてるほど汎用的なものです。そしてこのティラピア の養殖は2018年FAOによると世界で6,031,432トンのうち、中国がなんと30%近くを占めております。
そしてこの世界最大の生産地である中国産のティラピア フィレがどこに流通するかというと、米国なんです。
少し古い資料になりますが、これを見るだけでも米国の占める割合が60%を超えてますので、米国の白身魚の食生活を支えているのは中国だったわけです。念のため最新のティラピア フィレの輸入通関を見てみますと世界でも米国が最大市場というのが見てわかりますね。
この米中の供給関係の中で2018年5月10日以降、米国は中国産ティラピア に対しても25%の関税を課しました。つまり最大輸入国としていた中国産ティラピア の値段がこの日を境に25%も値上がりする訳です。
米国通商代表部(USTR)は5月9日付の官報で、1974年通商法301条に基づく、中国原産の輸入品に関するリスト3〔対中輸入額2,000億ドル相当の5,745品目(米国関税率表の上位8桁、一部品目は部分的に対象)〕の追加関税率を、5月10日に現行の10%から25%に引き上げると正式に発表する。トランプ大統領は5月5日に、ツイッターでリスト3の対中追加関税率の引き上げを表明していた(2019年5月7日記事参照)。USTRは3月5日に、中国との通商協議で重要な進展があったため、「次の通知」があるまでリスト3の追加関税率引き上げを延期すると発表していたが、3月以降は進展がみられず、引き上げを決定したとしている。
引用元:JETRO https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/05/5455cb8867383488.html
普通のスーパーで変える白身魚の値段がいきなり25%も値上がりするとさすがに誰も買いません。結果として米国の水産業者はこの関税措置を気に中国からの輸入を激減させることになりました。中国のティラピア 養殖業は大打撃を受けることになりフィレで販売できない→加工する必要がない→鱗や皮も出てこない、ということになり、コラーゲン需要が旺盛になる一方で、これまで残渣として捨てていた皮や鱗の値段が暴騰しました。
2020年5月、米国がティラピア を追加関税リストから外した事で中国の輸出が再開し、徐々に価格は落ち着きを取り戻しました。元々は捨てられていた魚の鱗・皮が化学業界と掛け合わさる事で、国際政治問題に巻き込まれ、また世界の健康意識トレンドに引っ張られ、結果として大きなダイナミズムを産むようになったと言えます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。最後までお付き合い頂き誠に有難うございます。再度纏めを記載致しますが『魚』×『化学』を追っかける事で身近な製品から世界のダイナミズムを体感いただけるのではないかと思います!
それではまた。